22.06.2016

ライフサイクル・マネジメント・シンポジウム 大盛況をおさめる

- 医学、ライフサイエンス、工学専門家を対象とした、東アジア・ドイツ学術交流シンポジウムをDAADが日本で開催 -

東アジア全域から集まったドイツ留学経験者たちの活発な話合い、ロボット工学のめざましい発展に関する興味深い話題、基本的な倫理問題に関する白熱した議論、刺激的な講演、楽しい音楽、おいしい料理など、ドイツ学術交流会東京事務所がフンボルト財団、筑波大学をはじめとする多くの支援のもとに「ライフサイクル・マネジメント」と題して開催したシンポジウムは、2016年のイベントとして長く私たちの記憶に残ることでしょう。

2016年6月3日から5日まで、韓国、中国、台湾、ドイツのDAAD元奨学生100名余りが、東京のドイツ文化会館に集まり、日本の専門家たちと「ライフサイクル・マネジメント」の可能性について専門の枠を越えて意見交換し、旧交を温め、新たな出会いを得ました。

Gruppenfoto

6月3日(金)の夜、ドイツ文化会館ホールでシンポジウムのオープニングパーティが行われ、まずドイツ学術交流会東京事務所所長のウルズラ・トイカが、この度のシンポジウムがこの種のシンポジウムとしては初めての学際的シンポジウムであると同時に2012年にソウルで設立された「ライフサイエンス・医学- 東アジアネットワーク(East Asian Network of Life Science and Medicine)」の第四回東アジア会議でもあること、人の生活に役立つ学問という視点にたった総合的なアプローチと持続的なマネジメントについての意見交換の場、ドイツとの学術的な繋がりを深める有意義な場となる、と挨拶。続いて、インゴ・へライン(Ingo Höllein) 在日ドイツ大使館科学課長・参事官、広渡 清吾 日本フンボルト協会理事長が挨拶の言葉を述べました。

松村明教授をはじめとするシンポジウム準備委員も、日本、中国、韓国、台湾、ドイツからの参加者に歓迎の意を述べ、人と人を取り巻く社会や自然環境を将来にわたりいかに健やかかつ有意義に保つか、というワークショップのテーマの重要性を示唆しました。

Lifecycle Banner

医療倫理学の第一人者である松田純 静岡大学教授が基調講演を行い、「ライフサイクル・マネジメント」の根本にある医療倫理および哲学的な問題に触れ、「モノのインターネット(Internet of Things)」 のもつ可能性と危険性について述べました。「インテリジェント」製品により常時、体の状態を分析させ、コントロールさせることさえも最近は技術的に可能になりましたが、基調講演はその問題に言及したものでした。私たちは、自分の体の「分析」をどこまでコンピュータにゆだねればよいのでしょう。体の「マネジメント」すらコンピュータに任せればよいのでしょうか。

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基調講演のあとはDAAD元奨学生で声楽家の日比啓子さんが、服部尚子さんのピアノ伴奏で、参加各国の歌をその国の言葉で歌ってくださり、多くの参加者がリズムに乗って一緒に口ずさんだりして和やかな夜となりました。

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翌日、土曜日の朝、外国からの参加者はホテルのロビーに集合、快晴のもと揃ってDAADに向かいました。ホールではまず、工学分野のシャーンドル・ヴァイナ(Prof. Dr. Sándor Vanja)マグデブルク大学教授が「始まりと終わりのあるものは、その始まりから終わりまでの間を『ライフサイクル』と言うことができる」と「ライフサイクル」という語を定義しました。工学における『製品ライフサイクル管理(PLM)』では、製品のライフサイクルが企画段階からリサイクルされるまで複数の段階に分類されます。その各段階を計画・調整するのが『マネジメント』で、製品以外のモノも同様に「ライフサイクル・マネジメント」という概念で捉えること、または扱うことが可能です。『ライフサイクル』という概念は今日、製品に限らず、サービスやソフトウェア、生物についてまでも適用されるようになりました。ただし、人の生命についてどこまで『マネジメント』という概念を適用できるのかは疑問の余地が残ると、「ライフサイクル・マネジメント」の基本概念について述べました。

Samstagmorgen

この日は4つのワークショップに分かれ、健康、コミュニティ、環境、安全等について議論が行われました。ランチョンセミナーでは、岩井整形外科内科病院副院長でフンボルト元奨学生の古関比佐志先生が「頸髄症治療のために新たに開発されたチタン製スペーサーを用いた頸椎椎弓形成術」を紹介。目新しいさまざまな医療器具に参加者の医師たちが大いに関心を寄せる一方で、特に海外からの参加者はめずらしい日本のお弁当に目を引かれていました。

Samstagmittag

午後も、森林学的な方法を応用した持続可能性に対するアプローチや、ウイルスや細菌のライフサイクルに着目した高齢化社会における健康管理、果ては白アリの生態まで様々な興味深いテーマに関する講演が行われました。金沢大学医薬保健研究域医学系革新予防医科学教育研究センター長の中村裕之教授は、花粉症に対する個別予防法の開発に関する最新調査を紹介しました。調査によれば、都市部でも農村部でも海岸の実験室でも、すでに日本で広く行われているように、マスクをつけるのが最も効果的な予防法だそうです。

Workshops

休憩後、各ワークショップのリーダーがそれぞれの成果を発表し、その後のディスカッションでは、ヒトの生命に「ライフサイクル・マネジメント」をあてはめてよいものかという問題に話題が集まりました。この問題について医師と工学専門家の意見は分かれました。工学で生まれた「マネジメント」という概念を勝手にヒトの生命に当てはめる前に、それは倫理的に相応しいかどうかをしっかり検討しなければならないという意見が多数を占めました。Samstagabend

夕方のプレナリースピーチでは、筑波大学大学院 システム情報工学研究科教授で筑波大学サイバニクス研究センターセンター長の山海嘉之教授が、パワードスーツ「HAL」(Hybrid Assistive Limb)を紹介しました。HALは、皮膚表面の生体電位信号を読み取り動作するパワードスーツで世界に知られ、G7科学技術大臣会合でも紹介されました。ヒトの「手足を動かそうとする思い」を皮膚から読み取って筋肉に伝えることで手足が動く仕組みで、病気や障害で手足が不自由になった人をサポートします。このパワードスーツは現在400を越える日本の病院で導入されています。ドイツでこのパワードスーツ最初に導入したのはエッセン近くノベルクマンスハイル大学病院で、さらに導入を広めていく計画です。ドイツでは保険の適用も検討されています。山海教授はドイツとの協力を進めることにしましたが、ドイツがアメリカとともに医学をリードする存在であることがその理由です。

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3日目の日曜日は筑波大学東京キャンパスが会場となりました。ハインリヒ・ケルン(Prof. Dr. Heinrich Kern)イルメナウ大学教授は、材料のライフサイクル・マネジメントと履修課程のライフサイクルを対比させながら講演し、持続的な学習には学習管理が必要であることを訴えました。ドイツの工学教育は、基礎教育の質・種類共に非常にすぐれており、優秀なエンジニアを輩出していることから、ドイツへの工学留学は日本人にとって大いにメリットがあるとのことでした。

 

千葉大学フロンティア医工学センター長の五十嵐辰夫教授は、千葉大学における若い研究者への医工学の実地教育ならびにベルリン・シャリテ医科大学との交流について述べました。最後に東京工業大学大学院生命理工学研究科長三原和久教授が、国際交流促進のために本年四月に組織編成が行われたこと、すでに交流のあるドイツの大学と今後はプロジェクトを通して交流を深めたいと考えていることを明らかにしました。

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プログラムの最後の項目は、東アジアと日本におけるアルムニ活動についてでした。ドイツと韓国のアルムニネットワーク「ADeKo」の事務総長を務める季基秀教授(Prof. Dr. Lee. Ki-su)が2007年にドイツの大学とアルムニネットワークを設立したいきさつから、その後韓国国内で、50ものドイツ留学経験者のアルムニ会を傘下に収める組織に発展した経緯を述べました。続いて、DAAD友の会会長 樋口隆一教授、フライブルク・アルムニ会代表 出口雅久教授、日本フンボルト協会常務理事 鍔田 武志教授が、それぞれのアルムニ活動について述べました。

最終的に、アルムニネットワークが大学の国際化に果たす役割は大きく、シンポジウムを定期的に開催することによりネットワークの強化を図るということで参加者の見解が一致しました。今回のシンポジウムを引き継ぐ形で近いうちに東アジアの隣国で同様のシンポジウムを開催することが提案され、韓国での開催が期待されています(確定には至っていません)。

会議終了後に東京観光をし、今年のシンポジウムを終えました。

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