ドイツ滞在の手引き

若手法律家のためのドイツ留学奨学金

体験記

 私は、DAAD奨学生として、2004年10月から2005年6月まで、Programm für Internationale Juristenに参加しました。これに参加を許された奨学生は2004年度は合計13名であり、その出身国は、アメリカ合衆国(3名)、ロシア(4名)、ポーランド(4名)、ベラルーシ(1名)、日本(1名)でした。

 まず、2004年10月から12月までは、南ドイツに位置するチュービンゲン大学で、民事法、刑事法、公法、法律用語などの授業が行われました。これらの授業は、奨学生向けにアレンジされたもので、若手の大学教員が奨学生に適宜発言を求めながら進められるものでしたので、毎日の予習・復習が不可欠ではありましたが、おもしろく参加させていただきました。また、法律用語の授業では、法律専門用語の習得や法律文献の読解、訴状、交渉文書等の起案練習、各国の法制度を題材としたプレゼンテーション練習など、実践的な練習が行われました。このほか、連邦憲法裁判所、チュービンゲン地方裁判所の裁判傍聴や、法律事務所訪問、市役所訪問などが盛り込まれ、授業以外の企画も充実しておりました。

 2005年1月からは、ノルトライン・ヴェストファーレン州の州都デュッセルドルフに場所を移し、2005年3月までは、デュッセルドルフ高等裁判所で、裁判官、弁護士等による、民事・経済法(民訴・民事執行法、破産法、商法・会社法、知的財産法、銀行法、税法等)、国際民事法、EU法、行政法等の講義が、2005年4月から3か月間は、弁護士事務所等で実習が行われました。デュッセルドルフ高等裁判所における講義は、上記のとおり、現場の一線で活躍されておられる実務家によるもので、非常に実践的で、アクテュエルな裁判例やドイツ・EU圏内における法的諸問題についてもふれられたものでしたので、興味深く受講させていただきました。また、これらの講義以外にも、司法修習生向けのEU法セミナーや、模擬裁判に参加させていただいたり、企業法務部や、弁護士・公証人会、州議会、刑務所などを見学させていただいたりと、講義以外の企画も盛りだくさんでした。後半3か月間の実習では、各々の奨学生が、各々の弁護士事務所等で実習を行うというものでした。やはり、ナマの事件をもとに、文献や裁判例等を調べてあれやこれやと自分なりに考え、文書を起案し、弁護士に当該事件の処理方針について意見を述べ、議論をするというのは、非常におもしろいもので、特に後半3か月はあれよあれよという間に過ぎ去ってしまったというのが率直なところです。

 上記でみたところから明らかですが、このプログラムは、ドイツ民事・経済法、国際法、EU法についての知識や現状を実践的な観点から把握したいという方にとって、特に意義深いプログラムであるといえます。もっとも、惜しむべくは、個人的には、このプログラム期間が、チュービンゲン大学、デュッセルドルフ高等裁判所における授業・講義、弁護士事務所等における実習すべての過程を通じて、やや短かすぎるのではという印象を持ってしまったことです。特に、弁護士事務所等における実習についてみると、現実問題として、3か月の実習期間のみでは個々の案件に本格的に関与するには限界があります(ちなみに、ドイツでは、第1次国家試験合格後の司法修習期間は2年と定められ、先の改正によって弁護士事務所等における実務修習は最低でも9か月とされています。)。実際、参加者の中には、ドイツにおける弁護士業務規制緩和の動きも見据え、プログラム終了後、ドイツで法律に携わる職に就きたいと意欲する者も少なくなかったのですが、すぐに戦力として活躍できるかと問われると、弁護士人口増加による競争激化に直面するドイツの現状をもみると、難しいものがあるように思われます。もっとも、個人的には、まさにドイツ民事・経済法、国際法、EU法の基礎知識・現状を広く把握することにプログラムに参加する目的を置いていましたので、この期間が短かかったという点を措いても、このプログラムへの参加は十分有意義なものであったと思っております。

 このプログラムへの参加を通じて感じたことは、国際化の波にさらされ、それにひたむきに対応しようとしている「ドイツ司法」ということです。もちろん、この「国際化」ということじたいは、日本についても当てはまることではあるのでしょうが、島国日本とは異なり、ドイツは他国と陸続きであるため、このことをより強く感じざるを得ません。他国の法制度との齟齬を解決するための一つの妥協が、EU・ヨーロッパレベルでの統一化の動きということになるのでしょうが、このプログラムへの参加を通じて、国際案件に従事するドイツ法律家が、EUレベルで統一を図っただけでは不十分であるということを認識しつつあって、日本等のアジア圏にもますます関心を向けはじめているとの印象を持ったのも事実です。ことに、デュッセルドルフは、日本企業のヨーロッパの拠点の一つともされるドイツ主要都市でありますから、この地で実務を経験したことは、この意味においても収穫であったと思います。

 さて、先に述べたように、このプログラムにはアメリカ合衆国やヨーロッパ各国からの若手法律家が参加します。各々のバックボーンを異にするとはいえ、皆、ドイツ法に興味を有するがゆえにドイツに渡り、このプログラムに参加したという目的は共通でしたし、同じ寮で生活を共にしていましたので、彼らとは実によく遊び、よく議論もしました。もちろん、ドイツの法制度を学ぶために渡独したわけですが、彼らとの交流を深める中で、彼らの母国の法制度や文化・風習について親しむことができたこと、また他方で、我が国の法制度や文化・風習について多少なりとも紹介することができたのも、かけがいのない経験であります。そしてなによりも、国籍は異なるとはいえ、このプログラムを通じて「友人」と呼べる者ができたことも、自分にとって大きな収穫であったと思います。 

 いずれにせよ、このプログラムの参加は、自分にとっても様々な意味において今後の糧になるものと確信しておりますが、DAADの皆様の暖かいご助力抜きにこのことを語ることはできません。ありがとうございました。

 また、私の体験談が、このプログラムに興味を持っておられる方への一助となれば幸いです。

(T.A)